ブランドとして世界のトップをいくグッチは、創業者グッチオ・グッチの死後、遺族による経営がうまくいかず、いまはグッチ家とは無関係の人たちの手によって、さまざまなアイテムがつくられつづけている。歴史を重ねたイタリアのフィレンツェ本店はトルナブオーニ通りにあるが、そのにぎわいはグッチ家の手を離れてからもかわることはない。このトルナブオーニ通りに、グッチとは比べようもない間口わずか3メートルの店がオープンしたのは1995年のこと。「ハウス・オブ・フローレンス」と名づけられたこの店は、バッグをメインにスカーフ、ネクタイなどの小物をあつかつている。日本語に訳せば「フィレンツェの家」となるこの店の経営者はロペルト・グッチ、そうグッチの創業者グッチオの後継者だったアルトの息子で、グッチ家の正統なる3代目である。1989年にグッチ社を去った彼が、バッグづくりへの夢を捨てきれず、ふたたび同じ業界にもどってきたのだ。ただ、オープンまでの道のりは厳しかった。みずからのファミリーネームであるにもかかわらず、グッチの名をいっさい使えない。「グッチ」が登録商標として存在する以上、店の名はしかたないとしても、社長がロベルト・グッチであると書いた書類すら人目にふれることを、現在のグッチ社から禁じられたのである。かつてグッチ社で働いた経験のあるロベルトが、なじみの皮革職人に仕事を依頼しようとしても、グッチ社を恐れて誰も手伝ってくれない。いったんは取引を承諾した商社も、土壇場になるとロベルトの製品をあつかうのをことわるといったケースが相次いだのだ。創業者一族という誇りを胸に、本道のバッグでは素材にこだわってすべて手作り、内側まで革製という半世紀前までのグッチのスタイルを守り、グッチオの志を貫く商品は、肥えた目をもつ人々の注目に値するものだ。店名に「家」を使ったのは、創業当時のように家族でブランドを育てるという思いと評する雑誌も出現した。