彼氏の支払いでエステサロンに

2011.04.12

金銭的なことを考えて思い留まろうとしている私がいるのに、みんなが買うとなれば、そんな自分はいとも簡単に崩れ去ろうとしていた。私は、今買わなければあとで後悔しないか、と心の中で自分に繰り返し問いただした。「本当にそれでいいの?」「しょうがないですよね」さっきまでは騒いでいたのに急にしんみりした顔になって、私の隣の客はFさんと話しはじめた。声を潜めているが鋭く聞こえてきた。「彼には分からないのよねえ。彼に内緒でローンを組んじゃえば?ローンを組めば月々2〜3万円の支払いでいいのよ」横目でちらりとFさんを見ると、隣の客に顔を近づけていかにも深刻そうな顔をして見せている。「2〜3万円なら自分でだって払えるでしょう?何も彼に言わなくたってねえ」「ええ」そこで潜めていた女性の声が普通に戻った。また横目でちらりと見ると、まるで今にも飲み込みそうな大きな目で、Fさんは女性をじっと見据えていた。―あんたにそこまで言われる筋合いはない。私は彼女がかわいそうに思えてきた。話から聞き取れることは、彼女は彼氏の支払いでエステサロンに通っているが、彼はそのことをよくは思っていないということと、2回目のコースを追加するようFさんがしつこく勧誘しているのだが、それを彼が許してはくれないから、追加はできないということだ。「今、通うのをやめたらもとに戻るわよ。せっかく何センチも痩せたのに。ああ、もったいないわねえ」「ええ?もとに戻るんですか」「一度コースに通ってサイズを落としても、その状態に体がなじんでいないんだから戻りやすいのよね。でも続けて通えば体になじむのよ。だからもし2回目のコースでね、サイズが落ちなかったとしても、その意味が違うってことよ」「こんなに痩せたのに」「そうねえ、難しいわね、維持するのは……維持するってことは、自己で管理するってことでしょう?今まではうちが管理していたわけでしょ、それを今度は自分でするとなると、やっぱり難しいでしょう」―いい加減にしなよ!私は聞くに堪えない話に鼻息が荒くなっていた。そこまで言ったら彼女が本当にかわいそうだった。私も言われた「もとに戻る」という切り札を、Fさんは出したのだ。それは、コースが終わりそうになると使うらしかった。しかも彼に内緒にして自分で払えとは、勧誘の域を超えている。そんなことまで言われた彼女は、これからどうするのだろう。「じゃあ、今日、彼を説得してみます」―はあ。彼女のその一言で、私は心の中で深い溜息をついてしまった。「もとに戻る」、この切り札は最強らしかった。じりじりといらだちがこみ上げ、心の底からここは地獄だと思った。
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